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フッ素の虫歯予防効果や安全・毒性について(歯磨き粉成分解説)

フッ化物配合歯磨き剤について

歯磨き粉に配合される「フッ素」について解説します。歯磨き剤の特徴や効果、作用、安全性(毒性)、注意点についても紹介します。

この記事は、口腔ケアアンバサダー(社団法人口腔ケア学会認定)の上林登が書きました。

フッ素の特徴を要約

【フッ素のメリット】

  • 虫歯を防ぐ
  • 耐酸性を高め歯をかたく丈夫にする
  • 再石灰化により歯の修復を促進する
  • 虫歯菌の働きを抑制する

【フッ素のデメリット】

  • フッ素だけでは虫歯は予防できない(歯磨きと食生活が大事)
  • 子どもが過剰に摂取した場合はフッ素症のリスクがある
  • 一度に多量のフッ素を誤飲した場合は急性中毒のリスクがある

※通常使用であれば、妊娠中・授乳中であっても影響はありません。

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フッ素とは

フッ化物、フッ素化合物を「フッ素」と呼び、自然界に存在しています。フッ素は歯質を強化し、むし歯菌の活性を弱めます。その結果むし歯を予防する効果があります。

特徴

フッ素の3つの作用によって虫歯を予防します。

  1. 酸により歯から溶け出したカルシウムやリンを補う「再石灰化」を促進します。
  2. フッ素がエナメル質を溶けにくくするため、むし歯になりにくくします。
  3. むし歯菌の働きを弱め、酸がつくられるのを抑えます。

フッ素はむし歯予防の効果が高いため、通常、予防歯科や歯科治療ではフッ素塗布をおこないます。また、ほとんどの市販歯磨き粉にはむし歯予防成分としてフッ素が添加されています。

安全性・毒性・注意点

フッ素はミネラルの一種で、人体や自然界に存在すると言われています。一般的な成人では、約2.6g程度のフッ素が体内に存在しています。魚介類や海草には2~10ppmのフッ素が含まれていて、乾燥したお茶の葉もフッ素を含んでいます。ですから通常の使用では有害性はありません。

フッ素の人体への影響が危惧されていますが、うがいや塗布などでフッ素が「口の中に残る程度の量」であれば、体に影響を与えることはありません。

しかし、フッ素を安全に使うには、歯磨き剤などに記載された用法を守り、長期期間、過剰摂取しないように注意しましょう。

参考記事>>e-ヘルスネット「フッ化物配合歯磨き剤」(厚生労働省)

まとめ

フッ化物配合歯磨き剤は、耐酸性・再石灰化・菌抑制の働きがあるため、むし歯予防の効果が期待されています。

しかし、虫歯の原因となる、プラーク(細菌)を除去するためには、現状では、歯ブラシでこすって取る方法しかありません。あくまでも、フッ素は、むし歯予防の補助ツールだと理解する必要があります。

また、毎日歯磨きしていても、プラークや歯石は残るので、定期的に歯科検診(歯石除去やクリーニング)も受けるようにしましょう。

「8020」ってなに?歯の8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動とは

口腔ケアアンバサダー(社団法人口腔ケア学会認定)の上林登です。

2022,5,30のYAHOO!ニュースで「全国民に毎年の歯科健診を義務付ける『国民皆歯科健診』の導入に向け、検討を始める」との発表がありました。

今頃になって『国民皆歯科健診』がなぜ必要になってきたのかと言うと、厚生労働省は日本歯科医師会とともに、80歳で歯を20本残す、いわゆる「8020運動」などを進めてきましたが、「歯科健診」の受診率があまりにも低いために、国民一人当たりの医療費が毎年増加しているからです。

あまり耳にしない「8020」ですが、この「8020」の基準を達成できている人は、高齢になっても「健康で長生き」していて、反対に残存歯数が少ない人ほど成人病や痴ほう症などで「介護」が必要になっているというデータが出ています。

と言うことは、「80歳になった時に歯が20本」あれば、老後も健康で生活できる可能性が高くなると思いませんか。

皆さんは「8020運動」についてどこまでご存知でしょうか?
今回は、この「8020運動」について、解説させていただきます。

「8020(ハチマルニイマル)運動」とは?

「8020運動」は、1989年より、現在の厚労省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。

8020推進財団
目的:21世紀の国民の積極的な健康づくりに寄与することを目的に、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動「8020運動」を国民運動として発展させていくために活動。

歯の本数の数え方は?

成人の歯は、上顎に14本(親知らずが2本あると16本)と下顎に14本あり、すべて残っている場合、合計数は28本(親知らずが4本残っていると32本)です。
※片顎14本の内訳…中切歯2本、側切歯2本、犬歯2本、小臼歯4本、大臼歯4本

治療が終わって銀歯など「被せ」の歯や、支台歯コアで「差し歯」になっている歯も1本と数えます。ブリッジで(抜歯して)ダミーの歯は数えません。
また、虫歯で歯が腐り、歯根しか残っていなく、歯としての役割を果たしていない場合は、本数に数えません。

歯を失うとどうなる?

残存歯が少なくなると、咀嚼能力が低下するため、おいしく食事ができないだけでなく、QOL(生活の質)とAOL(生活の快適さ)が低下して行きます。噛める歯が無くなると、誤嚥や糖尿病など病気になる可能性が高くなり、老化を早めることにつながります。

歯の喪失と健康の図解

引用:平成 27年度 厚生労働省委託事業 保険者における歯や口の健康づくりセミナー 資料


➀生活の質が低下する
固いものや繊維の多い野菜を食べることが困難になり偏食になります。自分の歯が少ないと、よく噛めないために消化器官に負担がかかるようになります。

咀嚼回数が減少すると脳への刺激や血流が不足することになり、アルツハイマー型認知症の原因になる、と言われています。

②病気のリスクを高める
残存歯の数が減ると、よく噛めなくなり、さまざまな病気のリスクを高めます。
歯を失い噛めなくなることで招く可能性のある疾患は、認知症・脳血管疾患のほか、肥満・糖尿病・転倒・免疫力の低下・胃腸の不調などがあります。

歯の喪失と糖尿病

引用:平成 27年度 厚生労働省委託事業 保険者における歯や口の健康づくりセミナー 資料

③実際年齢よりも老けて見える
歯が抜けると、歯を支えていた骨が痩せて口元にしわができやすくなり、見た目も実際の年齢より老けて見えます。鏡で若さを失った自分を見ることで、余計に老化を早めるかもしれません。

④正しい発音がしづらくなる
抜けた歯の間から空気が漏れるため、発音がしづらくなります。部分義歯でバーやクラスプがある場合には、会話時に舌が触れて喋りづらく老けた発声になります。

⑤顎関節に影響が出る
歯がないと噛み合わせが悪くなるため、顎関節が痛くなることがあります。顎関節に影響が出ると、バランスを乱して転倒しやすくもなります。また、頭痛・肩こりなどの原因にもなります。

8020を達成するとどうなる?

20本以上の歯があれば、なんでも良く噛めるので、食生活に満足ができます。それは、QOL(生活の質)とAOL(生活の快適さ)の低下の防止につながり、結果として健康で長生きできます。

80歳になった時に20本以上の歯を残すためには、次の3つがポイントになります。

1)よく噛んで食べる(唾液の分泌を促す)
2)丁寧に歯磨きを行い、しっかりと歯垢を除去する
3)歯科医院による定期健診を受ける

歯を失う原因

歯を失う原因の4割近くを歯周病が占めています。ちなみに、歯を失う原因全体では、歯周病が37.1%で、虫歯が29.2%です。

【歯の喪失原因】
1位 歯周病
2位 虫歯
3位 歯のくいしばり
引用:歯を失う理由、8020推進財団、第2回永久歯抜歯原因調査(2018年)

高齢になるほど残っている歯の数は少なくなり、75歳以上の後期高齢者の平均本数は約16本で、約3割の人が「総入れ歯」を使っているのが現状です。
引用:歯の喪失の実態、厚労省e-ヘルスネット

失った歯を補う方法

歯科治療で抜歯した後は、歯の抜けた部分を人工の歯で補うことになります。
失った歯を補う方法は3つあります。

・ブリッジ
・入れ歯(部分床義歯・全部床義歯)
・インプラント

成人の噛む力は、天然歯の場合は20~30歳の男性で約60kg、女性でも約40kgもあるといわれます。

ところが、噛む力は、部分入れ歯は天然歯の30~40%、総入れ歯になると10~20%しかありません。ブリッジでも天然歯の約60%程度しかありません。インプラントは天然歯とほぼ同じ噛む力がありますが、後述する多くのデメリットがあります。

入れ歯のデメリット

保険義歯のデメリットは…

  • 食べカスが挟まりやすい
  • 硬いものが食べにくい
  • バネ(金属クラスプ)など見た目が良くない
  • 手入れに手間がかかる
  • 会話しにくい
  • 不適合の場合は粘膜が痛くなる

インプラントのメリット・デメリット

(メリット)

  • よく咬める
  • 取り外す面倒がない
  • 審美感がよい

(デメリット)

  • 治療費が高い、治療期間が長い
  • 歯槽骨に直接咬合圧がかかるため、噛む感覚が自然歯と違う
  • 感染からインプラント歯周炎になる可能性がある

>>インプラントやらなければよかった!?インプラントのデメリット

実証済みの「8020運動」の方法とは?

1989年に始まった「8020運動」の達成者は10人に1人(10%)にも満たない状態でしたが、30年経った現在は2人に1人(50%)の達成を実現することができました。
引用:厚生労働省、2016(平成28)年の「歯科疾患実態調査」

その理由は、、

  1. 1日3回以上、歯をみがく者が倍以上に増加
  2. デンタルフロスや歯間ブラシ等の補助的な清掃用具の使用者が増加
  3. 定期歯科健診を受診する人が増加
  4. 歯と口への健康意識の高まり
  5. フッ化物配合歯みがきのシェアが増加
  6. 年間砂糖消費量の減少

これらの結果として、未処置のむし歯の減少と喪失歯の減少につながったのです。このやり方をお手本にすると「8020」を達成しやすくなるでしょう。

より確実に「80歳で20本」を実現する方法

「8020」を実現するためには、歯が痛くなってから歯科を受診するのではなく、痛くなる前から予防することが重要です。

予防歯科先進国のスウェーデンでは、1970年代に『定期検診』を義務化したことで、20本以上の歯を残すことに成功しています。

しかし、定期検診だけで歯の健康を予防することは難しいです。歯周病など歯科疾患を予防するためには、毎日の歯磨きをしっかりと行う必要があります。磨き残しをなくすためにも、定期検診時に「ブラッシング指導」を受けるようにしましょう。

>>現役歯科衛生士が教える「正しい歯磨き」の仕方


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