こんにちは、口腔ケアアンバサダー(社団法人 日本口腔ケア学会認定)の 上林登です。監修:歯科衛生士 上林ミヤコ。
「差し歯から変なニオイがする」「近づくと口臭が気になる」と不安になっていませんか。
差し歯の臭いは、放っておくと虫歯や歯周病の悪化につながることもありますが、原因と対処法をきちんと押さえれば、落ち着いて対応できます。本記事では、差し歯が臭う主な原因と受診の目安、歯医者での治療、自宅でできるケア(重曹の使い方やアルカリイオン水ケア)まで、順番にやさしく解説します。
結論:差し歯の臭いは「原因の確認」が最優先。自己流ケアだけで放置しないで

まず最初に、差し歯の臭いについて押さえておきたいポイントをまとめます。
- 差し歯の臭いの多くは、差し歯と歯ぐきの境目にたまった汚れ、歯周病、差し歯の内部で進行している虫歯や膿が関係しています。
- とくに痛み・腫れ・膿・発熱・顔の腫れなどがある場合は、自己判断せずに歯医者での診察が最優先です。
- 重曹を使ったケアや、アルカリイオン水などによる洗浄は、あくまで「歯医者で大きな異常がない」と言われた後のサポートとして取り入れるのが安全です。
差し歯の臭いは、口臭だけの問題ではなく、差し歯の下で虫歯が進んでいたり、根の先に膿がたまっていたりするサインになっていることもあります。まずは「どこから臭いが出ているのか」を歯医者で確認してもらい、そのうえで自宅ケアを組み合わせる。この順番を大切にしてください。
差し歯が臭うときに考えられる主な原因5つ

ここでは、差し歯が臭うときに多い原因を5つに分けて解説します。
1.差し歯と歯ぐきの境目にたまった汚れ
もっとも多いのが、差し歯と歯ぐきの境目(マージン)に歯垢(プラーク)や食べかすがたまり、細菌が増えてしまうパターンです。
- 差し歯の縁にわずかな段差・引っかかりがある
- フロスや歯間ブラシが通りにくい、あるいは全く使っていない
- 磨き残しが続き、プラークが固まって歯石になっている
こうした状態が続くと、細菌がタンパク質を分解する過程で腐敗臭やドブのようなニオイを発生させます。見た目はきれいでも、差し歯の縁に白っぽい汚れや黄ばみがついている場合は、要注意です。
2.差し歯の中で進行している虫歯や根の膿
差し歯は、もともとの歯を土台として、その上にかぶせ物を装着しています。土台の歯や根の治療が不十分だったり、時間の経過とともに隙間から細菌が入り込んだりすると、差し歯の下で虫歯や膿が進行することがあります。
- 差し歯を入れてしばらくしてから、ズキズキした痛みが出る
- 噛んだときだけ違和感や痛みが出る
- 歯ぐきに小さなできもの(ニキビのような膿だまり)ができる
このような場合、差し歯の内部で歯髄(神経)がダメージを受けていたり、根の先に膿がたまっていたりする可能性があります。外から磨くだけでは改善しないので、歯医者でレントゲンなどの精密検査が必要です。
3.歯周病や歯ぐきの炎症
差し歯まわりの歯ぐきが炎症を起こし、歯周ポケットが深くなっていると、そこにプラークや血液、膿がたまりやすくなります。歯周ポケットの中は空気が少なく、嫌気性菌が増えやすいため、強い口臭を伴うことが多いです。
- 歯ぐきが赤く腫れている、触るとブヨブヨしている
- 歯磨きで簡単に出血する
- 差し歯のまわりだけ、独特のネバつきやニオイがある
歯周病が進行すると、差し歯を支えている骨が溶け、歯がグラグラしてくることもあります。差し歯まわりの炎症を放置しないことが、差し歯そのものを長持ちさせるうえでも大切です。
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4.差し歯の適合不良や設計の問題
差し歯が歯にぴったり合っていない場合や、設計上どうしても清掃しにくい形になっている場合、汚れがたまりやすくなります。
- 差し歯の縁に明らかな段差やひっかかりがある
- フロスがひっかかって切れてしまう
- 鏡で見ると、差し歯の縁の色が変わっている・黒く見える
適合の悪い差し歯を、自己流のゴシゴシ磨きで何とかしようとしても、かえって歯ぐきを傷めてしまうことがあります。差し歯の形そのものに問題がありそうなときは、歯医者での調整や作り直しも視野に入れて相談しましょう。
5.口の乾燥や全身の病気の影響
差し歯まわりに明らかな異常がなくても、口全体が乾燥して唾液が少なくなっていると、細菌が増えやすくなり、ニオイが強くなります。ストレスや加齢、服用している薬の副作用、鼻づまりによる口呼吸などが影響することもあります。
また、糖尿病や副鼻腔炎、扁桃腺のトラブルなど、全身の病気が口臭を悪化させることもあります。差し歯以外のところからも強いニオイを感じる場合は、内科や耳鼻科での相談も検討してください。
もし「差し歯だけでなく、銀歯やブリッジなど他の被せ物も気になる」という方は、被せ物全体の原因と対処法をまとめた『被せ物が臭いときの原因と即効セルフケア』の記事も参考になります。
こんな症状があれば歯医者へ相談を|受診のチェックリスト
差し歯の臭いは、自宅ケアだけで様子を見てよい場合もあれば、早めに歯医者で診てもらったほうがよい場合もあります。ここでは、受診の目安を「赤信号」と「黄信号」に分けて整理します。
すぐに受診したい「赤信号」の症状
次のような症状がある場合は、できるだけ早く歯医者を受診してください。
- 差し歯のあたりがズキズキと痛む、夜眠れないほどの痛みがある
- 差し歯の根元の歯ぐきが大きく腫れている、押すと強い痛みがある
- 歯ぐきから膿が出ている、口の中に嫌な味が広がる
- 発熱や、ほほ・顔の腫れを伴っている
- 差し歯がグラグラして、噛めない・外れそうに感じる
このような場合、差し歯の下で虫歯が進行していたり、根の先に膿がたまっていたりする可能性があります。痛み止めや市販薬、自己流の重曹ケアでごまかそうとせず、まずは歯医者で状態を確認してもらうことが大切です。
数日〜1週間以内に相談したい「黄信号」の症状
次のようなケースも、急を要するほどではなくても、早めの受診をおすすめします。
- 差し歯のあたりから、以前より強いニオイがするようになった
- フロスを通すと、いつも同じ場所から血が出る
- 噛んだときだけ軽い痛みや違和感がある
- 差し歯の縁が黒く見える、色が変わってきた気がする
- 同じ差し歯で、トラブルを何度も繰り返している
早めに診てもらうことで、簡単なクリーニングや調整だけで済むこともあります。放置期間が長くなるほど、治療が複雑になったり、費用や通院回数が増えたりしがちです。
差し歯を作り直す必要が出てきた場合、保険診療と自費診療では費用や素材が大きく変わることがあります。前歯の差し歯の料金や保険・自費の違いについて知りたい方は、『前歯の差し歯の値段はいくら?保険適用と自費治療の徹底比較!』も参考にしてください。
歯医者で行う差し歯の臭いへの治療・処置
差し歯の臭いの原因によって、歯医者で行う治療は変わります。ここでは代表的なものを紹介します。
専門的なクリーニングと歯周病治療
差し歯と歯ぐきの境目に歯垢や歯石がたまっている場合は、まず専門的なクリーニング(スケーリング)が行われます。家庭の歯ブラシでは落としきれない歯石を除去することで、細菌のすみかを減らし、ニオイの原因を取り除きます。
歯周ポケットが深くなっている場合は、歯ぐきの中の歯石を取るルートプレーニングなどが必要になることもあります。歯周病の進行度に応じて、数回に分けて治療するケースもあります。
差し歯の調整や作り直しが必要なケース
差し歯の縁に大きな段差があったり、適合が悪くて隙間ができていたりする場合は、調整や作り直しが検討されます。
- 差し歯の形をわずかに削って、フロスが通りやすい形に整える
- 一度外して、土台の歯の状態をチェックしたうえで、差し歯を作り直す
- 古くなった差し歯を、新しい素材(セラミックなど)に交換する
作り直しが必要かどうか、どの素材を選ぶかは、歯の状態や噛み合わせ、予算によっても変わります。前歯の差し歯の費用と保険・自費の違いを先に把握しておくと、相談しやすくなります。
根管治療(神経の治療)が必要なケース
差し歯の下で虫歯が深く進んでいたり、根の先に膿がたまっている場合は、根管治療(こんかんちりょう)が必要になることがあります。具体的には、差し歯を外し、歯の中を丁寧に清掃・消毒し、薬を詰め直してから、あらためて差し歯を装着する流れです。
根管治療は、何回か通院が必要な治療ですが、歯を抜かずに残せる可能性を高める大切なステップです。放置してしまうと、最終的には抜歯せざるを得なくなることもあるため、「ニオイ+痛み・腫れ」がある場合は早めに相談しましょう。
歯医者で大きな異常がないと言われた人のための自宅ケア
歯医者で「差し歯の土台や根に大きな問題はなく、主に汚れや磨き残しが原因ですね」と言われた場合は、自宅ケアを見直すことで、ニオイを大きく減らせる可能性があります。
差し歯まわりを清潔に保つブラッシングとフロスの基本
差し歯の臭い対策の基本は、差し歯の縁をやさしく、ていねいに清掃することです。
- 歯ブラシは毛先が開いていない、やや柔らかめのものを使う
- 差し歯の縁に毛先を軽く当て、小さく細かく動かす(ゴシゴシこすり過ぎない)
- 歯と歯の間には、フロスや歯間ブラシを無理のない範囲で取り入れる
- 歯間ブラシは、きつすぎず、スッと通るサイズを選ぶ
力を入れすぎると、歯ぐきを傷めてしまい、かえって炎症や出血の原因になります。「汚れをこそぎ落とす」というより、「毛先を差し込んで、汚れを撫で出す」イメージで行うとよいでしょう。
重曹を使った差し歯まわりのケア方法と注意点

重曹(炭酸水素ナトリウム)は弱アルカリ性で、歯の表面についた酸性の汚れを中和し、タンパク汚れをゆるめる働きがあります。ただし、使い方や頻度を誤ると、歯や歯ぐきを傷めるリスクもあるため注意が必要です。
自宅で取り入れる場合は、次のようなポイントを守りましょう。
- 食用または医療用グレードの重曹を、ごく少量だけ使う
- コップ1杯の水に「ひとつまみ」程度を溶かし、重曹水として使う
- 歯ブラシに直接たくさん付けてゴシゴシこする使い方は避ける
- 使用頻度は、週に1〜2回程度までを目安にし、毎日使い続けない
- しみる・ヒリヒリするなど違和感があれば、直ちに中止する
重曹水で軽くうがいをしたり、重曹水に浸した歯ブラシで、差し歯の縁をやさしくなでる程度であれば、多くの方にとって大きな刺激にはなりにくいと考えられます。ただし、歯の表面を研磨する目的でゴシゴシこする使い方は避けるべきです。
また、重曹は金属や一部の材料に影響を与える可能性がゼロではありません。銀歯やブリッジなど、他の被せ物が多い方は、歯科医師と相談したうえで取り入れると安心です。
アルカリイオン水で「こすらず薄めて流す」洗浄ケア
「差し歯の縁を強くこすると歯ぐきが傷むのが心配」「口の中が乾燥しがちで、ゴシゴシ磨きに自信がない」という方には、アルカリイオン水を使った“こすらず薄めて流す”洗浄ケアも一つの方法です。
アルカリイオン水は、タンパク汚れをゆるめて流し出しやすくする性質があるため、短時間のうがいとやさしいブラッシングでも、汚れを落としやすくなるのが特徴です。
- 水を口に含み、5秒程度「ブクブク・ゴロゴロ」とうがいする
- 差し歯のまわりを軽くブラッシングして、汚れを浮かせる
- 最後にふつうの水でしっかりゆすぎ、薄まった汚れを流す
ポイントは、「時間をかけて擦る」のではなく、「短時間で、こすらず、薄めて流す」ことです。これにより、摩擦による刺激を抑えつつ、差し歯まわりの汚れを落とすことができます。
もし「差し歯だけでなく、銀歯やブリッジ、セラミックも気になる」という方は、次の関連記事も参考にしてみてください。
差し歯の臭いに関するよくある質問(Q&A)
Q1.差し歯の臭いは放置するとどうなりますか?
A1.原因によりますが、内部の虫歯や歯周病が進行して、歯を失うリスクが高まる可能性があります。差し歯の下で虫歯が進んでいる場合、外からは見えにくく、気づいたときには大きく削らざるを得ないこともあります。痛みや腫れがなくても、ニオイが続く場合は、一度歯医者でチェックしてもらうことをおすすめします。
Q2.差し歯は何年くらいで交換が必要ですか?
A2.素材や噛み合わせ、ケアの仕方によって大きく変わりますが、一般的には数年〜10年前後で作り直しを検討するケースが多いと言われます。ただし「○年たったら必ず交換」という決まりがあるわけではなく、実際には「虫歯・歯周病・適合不良・見た目の変化」などを総合して判断します。定期検診の際に、歯医者に寿命や交換の目安を相談すると安心です。
Q3.重曹ケアは毎日しても大丈夫ですか?
A3.重曹は便利な一方で、使い過ぎると歯や歯ぐきへの負担になる可能性があります。基本的には、週に1〜2回程度までにとどめ、毎日のケアは通常の歯磨きやフロス、アルカリイオン水などで補うのが安心です。しみる・ヒリヒリするといった違和感があれば、すぐに中止し、歯医者に相談してください。
Q4.市販のマウスウォッシュだけでも、差し歯の臭いは治りますか?
A4.マウスウォッシュは、口の中のニオイを一時的に和らげる効果はありますが、差し歯の縁にたまった歯垢や歯石、内部の虫歯や膿そのものを取り除くことはできません。ニオイをごまかすだけで済まそうとすると、原因が見えないまま進行してしまうおそれがあります。マウスウォッシュはあくまで補助的なケアと考え、気になる症状があるときは歯医者で原因を確認してもらいましょう。
差し歯の臭いは、とても不安になりやすいお悩みですが、「原因を知る」「必要なら歯医者で治療する」「自宅ケアで清潔を保つ」というステップを踏めば、落ち着いて対処していけます。この記事が、少しでも安心につながれば幸いです。
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