こんにちは、口腔ケアアンバサダー(社団法人 日本口腔ケア学会認定)の上林登です。
「口が乾く・朝の口臭が気になる・息が浅い…」——それ、舌の居場所が下がる低位舌が関係しているかもしれません。本記事は、成人の読者向けに「低位舌」をやさしく解説し、30秒セルフ診断→安全な基本トレ→受診目安までを一気通貫でまとめた総合ガイドです。
低位舌とは?——定義・原因・デメリットをまず理解
低位舌の定義:舌先の正しい位置(スポット)と基準

安静時、舌先は上の前歯のすぐ後ろのスポット付近に軽く触れ、舌全体は上あごにふんわり吸着するのが理想的な舌位です。歯は軽く離し(安静空隙)、唇は力まず閉じ、鼻呼吸が基本。これらが崩れて舌が口腔底側に落ちやすい状態が低位舌です。
なぜ起こる?主な原因(口呼吸・鼻閉・習癖・姿勢・ストレス)
鼻閉(鼻炎・副鼻腔炎・後鼻漏等)で口呼吸が続く、嚥下時に舌を前に押し出す舌癖、長時間の前方頭位姿勢、ストレスによる口唇や顎周りの緊張などが重なると、舌位は下がりやすくなります。矯正領域でも、歯の位置は舌・口輪筋など軟組織の圧の影響を受けるため、機能面の評価が重視されます。
放置リスクとデメリット:口臭・いびき・嚥下違和感・姿勢悪化
口呼吸は口腔乾燥と舌苔の付着を助長し口臭リスクを上げます。睡眠中はいびき/睡眠時無呼吸の素地にもなり、日中の集中力低下・疲労感に波及することがあります。
紛らわしい状態との違い:舌苔・短舌小帯・地図状舌など
舌が白く見える主因は舌苔で、低位舌そのものではありません。舌の可動域が少ない舌小帯短縮症や、模様が出る地図状舌などは別の状態。迷うときは歯科や耳鼻科で評価を。
30秒セルフ診断:鏡と“スポット”位置で簡単チェック
鏡でわかる5チェック(舌先位置・舌背の盛り上がり・口唇の力み等)
- 安静時、舌先がスポットに軽く触れているか
- 舌全体が上あごに吸着しているか(舌背がふんわり盛り上がる)
- 上下の歯は当てない/唇は力まず閉じられているか
- 鼻呼吸が保てているか(鼻詰まりはないか)
- 嚥下時、舌先で前歯を押していないか
NG例とよくある誤判定(口を大きく開けすぎ・力み・顎の突き出し)
診断は「軽く口を閉じた安静位」で。大開口・力み・顎の突き出しは舌位を崩し、誤判定の原因になります。
写真の撮り方・記録テンプレ(経過観察のコツ)
- 正面・側面・やや下からを同じ明るさ・距離で撮る(週1回)
- ログ項目:スポット到達度/鼻詰まり度/口渇/起床時の舌苔量
今日からできる治し方:安全な基本トレと日常リマインド
基礎1:舌先スポットの静的ホールド(優しく・短時間・無理しない)
舌先をスポットに軽く当て、舌全体で上あごをそっと覆う。
目安:10〜20秒×1日5〜10回。痛み・しみがあれば即中止。
基礎2:舌吸着と鼻呼吸スイッチ(こすらない・摩擦を増やさない)
鼻から静かに吸い、舌全体を「ペタッ」と上あごへ→鼻からゆっくり吐く。口は自然に閉じる。
乾燥しやすい人ほどこすらず短時間を徹底。
生活リマインド:スマホ首・姿勢・水分の摂り方・口すぼめ呼吸
- 画面は目線の高さへ。前方頭位は舌位を下げやすい
- こまめな水分。甘味・酸味の摂りすぎはpH変動→舌苔温床に
- 就寝前は鼻を整える(加湿・鼻洗浄など)
- 口すぼめ呼吸(4秒吸う/6秒吐く)で口周りの余計な力みを解除
やってはいけないこと(強刺激・過度な舌磨き など)
強い摩擦は粘膜バリアを傷めます。痛み=撤退サイン。舌ブラシはなでる程度にとどめ、頻回・強圧は避ける。
不安を解消:回数・期間の目安と“撤退ルール”
頻度と負荷の目安:1日の回数・1回の秒数・いつまで続けるか
まず2〜4週間は基礎1・2を継続し、写真記録で微差を可視化。効果には個人差あり。
しみる・痛いときの撤退ルール:一時中止→48時間休止→再開の基準
痛み・しみ・ヒリつきが出たら即中止→48時間は未介入で鎮静最優先→症状ゼロに戻ってから負荷1/2(回数or秒数)で再開。
改善シグナル/逆効果サインの見分け方
- 良いサイン:鼻呼吸が楽/起床時の舌苔が減る/口渇が軽い
- 悪いサイン:舌の痛み・口角炎・しみが持続、いびき増悪
続かないときの工夫:トリガー習慣・タイムボックス・記録化
「歯磨き後に10秒×3回」「デスク休憩ごとに1セット」など、既存習慣に結びつけ、実施ログで継続性UP。
低位舌と口臭の関係:なぜ臭いやすくなるのか
乾燥と舌苔のメカニズム(口呼吸・だ液減少・停滞)
口呼吸やだ液減少は舌表面の乾燥と停滞を招き、舌苔→口臭を助長します。だ液は自浄作用の要です。
シーン別の即効ケア(朝・空腹・会議前・マスク時)
- 朝:起床直後に水→やさしいうがい→舌のなで洗い
- 空腹:唾液分泌にガム(キシリトール)
- 会議前:水ですすいで“薄めて流す”。強香で誤魔化さない
- マスク:鼻呼吸を意識し乾燥を回避
補助洗浄の考え方:こすらず“薄めて流す”ケアと仕上げの水うがい
乾燥傾向の人ほど摩擦を増やさず短時間で終える発想が有効。最後は必ず水ですすぐ。
根本ケアへの橋渡し:鼻呼吸・湿度・就寝環境の見直し
夜間の鼻閉やいびきが強い人は、就寝環境(湿度40〜60%、枕高、鼻洗浄)を整え、必要に応じて耳鼻科評価を。
受診目安と科の選び方:歯科/耳鼻咽喉科/他科の連携
歯科を受診すべきサイン(歯周病所見・舌痛・噛み合わせ問題など)
出血・強い口臭・しみ・厚い舌苔・噛み合わせ違和感が続くときは歯科へ。必要に応じてMFT(口腔筋機能療法)も検討。
耳鼻咽喉科を受診すべきサイン(鼻閉・後鼻漏・いびき等)
鼻閉・後鼻漏・慢性咳・いびき・睡眠中の無呼吸様症状があれば耳鼻科で原因を鑑別(鼻炎・副鼻腔炎など)。
矯正・ことばの相談・睡眠時無呼吸の評価が必要なケース
歯列・顎顔面や発音の悩みは矯正歯科/言語聴覚士へ。睡眠時無呼吸が疑わしければ専門外来の評価を。MFTはOSAの補助療法としてエビデンスがあります。
赤ちゃん・子どもは別記事で詳しく(意図分離・内部リンク)
小児は評価軸が大人と異なります。本記事は成人向けです。
比較:トレーニング vs マウスピースの使い分け
目的と適応の違い(機能訓練か、補助具か)
トレーニング(MFT)=舌の居場所を作り直す機能訓練。マウスピース=物理的に補助。鼻閉が強いなら耳鼻科治療を先に、舌癖主体ならMFTを軸に。
費用・期間・効果の出方(短期と中長期の見立て)
MFTは習慣化で徐々に(数週〜数か月)。マウスピースは装着直後に補助感が得られやすい一方、外すと戻りやすい面も。併用で相乗を狙う。
併用の考え方と切り替え基準(いつ受診・導入を検討するか)
- 自宅トレ2〜4週で変化が乏しい/痛み・悪化がある→歯科へ
- 鼻閉・いびき主体→耳鼻科先行、その後MFTへ
- OSA疑い→専門医で評価し、方針に沿ってMFTを補助に
選び方フローチャート(自己判定→受診→実行)
①セルフ診断 → ②主因(鼻・歯・睡眠)の仮決め → ③適切な科へ → ④家庭で続けられる低負荷トレ → ⑤2〜4週後に見直し、必要に応じて補助具や治療を追加。
よくある質問(FAQ)
どれくらいで改善を感じる?個人差と期待値の設定
「鼻が通る」「朝の口渇が軽い」などは数週で感じる人もいれば、数か月かかる人も。写真記録で微差を拾いましょう。
舌磨き・強刺激は必要?むしろ避けたいケース
ヒリつき・痛みが出やすい、乾燥傾向の人は強刺激を避けるのが安全。なで洗い+水ですすぐが基本。
睡眠時の舌位置・テープは?安全運用の注意点
テープは無理に固定しない範囲で。鼻閉がある日は使用しないなど、安全第一。迷うときは医療機関へ。
再発しないための生活設計(乾燥・鼻呼吸・姿勢)
乾燥を断ち、鼻を整え、姿勢を見直す——この3本柱が再発予防のコアです。
まとめと次の一歩
3行まとめ(要点再掲)
- 低位舌は舌の居場所が下がる状態。まずはスポット基準でセルフ診断
- 対策はこすらず・短時間・低負荷の基本トレ+乾燥と鼻呼吸のコントロール
- 痛み・悪化は撤退→48h休止→負荷1/2再開。必要時は受診
実行チェックリスト(今日やる・今週やる・受診の目安)
- 今日:水分→やさしいうがい→スポット10秒×3→写真1枚
- 今週:就寝環境の加湿と鼻ケア/姿勢見直し/トレ記録開始
- 受診:痛み・強い口臭・いびき/OSA疑い/鼻閉・後鼻漏が続く
関連記事への内部リンク
補助洗浄の選び方ガイド(本記事の文脈に合う製品の考え方)
乾燥・刺激に弱い人は、摩擦を増やさず短時間で終える“薄めて流す”発想を基本に。詳細は上の関連記事へ。
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参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:口臭(総説)/口臭の原因・実態
- 日本耳鼻咽喉科学会:鼻がのどに流れる(後鼻漏)
- Camacho M, et al. Sleep 2015:Myofunctional Therapy to Treat OSA
- Meghpara S, et al. 2022(メタ解析):Myofunctional therapy for OSA
- 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療における標準治療の指針」:PDF(軟組織評価の重要性)
- スポットの位置の基本解説(矯正専門医の患者向け記事):舌の正しい位置「スポット」について






