こんにちは、口腔ケアアンバサダー(社団法人 日本口腔ケア学会認定)の 上林登です。
「舌に口内炎のようなものができて、2週間たっても治らない」「場所は小さいのに、もしかして舌癌だったら…」と不安になっていませんか。
舌の口内炎やただれの多くは良性の炎症ですが、同じ場所の症状が2週間以上続く場合は、口腔がん・舌がんのサインである可能性もゼロではありません。一方で、自己判断で「きっと癌だ」と思い込んでしまうことも、つらい不安につながります。
このページでは、一般的に知られている医療情報をもとに、
- なぜ「2週間」が一つの目安と言われるのか
- 舌の口内炎と舌癌の初期症状の違い
- どんなときに、何科を受診すればよいか
- 不安を和らげるためのセルフチェックと記録の残し方
をまとめました。最終的な診断や治療は必ず医師・歯科医師が行う必要があります。このページは、「受診した方がよさそうかどうか」を考えるための目安と、病院にかかる一歩を後押しすることを目的としています。
2週間以上続く舌の口内炎は要注意かも知れません

なぜ「2週間」が一つの目安と言われるのか
口の中の粘膜は、新陳代謝が早く、通常は10日前後で入れ替わると言われています。そのため、一般的な口内炎であれば、数日から1〜2週間程度で自然に良くなることが多いです。
一方で、「同じ場所の潰瘍やただれが2週間以上続く場合は、専門医に相談した方がよい」とする目安が、世界各国のガイドラインや専門家解説で共通して示されています。これは、「2週間たっても治らないものは、炎症以外の病変(前癌病変やがんなど)が隠れていることもある」からです。
もちろん、2週間を過ぎたからといって必ず舌癌というわけではありません。ただ、自分だけで判断して様子を見続けるより、一度医療機関で確認してもらう方が安全という考え方です。
場所・大きさ・回数で見るべきポイント
「2週間」という期間に加えて、次のようなポイントも受診の目安になります。
- 場所…舌癌は、舌の側面(横)や裏側などにできやすいと言われています。一方で、舌の先端や中央部分に繰り返しできる小さな潰瘍は、歯の当たりや軽い噛み傷による口内炎であることも多いです。
- 大きさ…最初は米粒ほどでも、だんだん大きくなってきたり、周囲が盛り上がって硬くなってきたりする場合は要注意です。
- 回数・経過…「同じ場所に、治り切らずにずっとある」のか、それとも「場所を変えながらたまにできては数日で治る」のかでも意味合いが変わります。
特に、舌の側面や裏側に、同じ場所で治り切らない潰瘍やしこりが続く場合は、早めの相談をおすすめします。
痛みの強さだけでは判断できない理由
「あまり痛くないし、大したことはないかも」と感じている方も多いかもしれません。けれども、
- 通常の口内炎は、むしろヒリヒリ・しみるような強い痛みを伴うことが多い
- 舌癌や前癌病変の中には、初期には痛みがほとんどない、または違和感程度にしか感じないものもある
といった特徴があります。
つまり、「痛くないから大丈夫」「痛いから危険」という単純な話ではありません。痛みの強さだけに頼らず、「続いている期間」「場所」「触ったときの硬さ」などを含めて全体として判断し、少しでも心配であれば受診して確認してもらうことが大切です。
舌の口内炎と舌癌の初期症状にはどんな違いがあるのか

一般的な舌の口内炎の特徴
一般的な舌の口内炎には、次のような特徴があります。
- 境界がはっきりした、白っぽい円形〜楕円形の浅い潰瘍
- 噛んだ・熱いものを食べた・歯が当たるなど、思い当たるきっかけがあることも多い
- ヒリヒリ・ズキズキとした急性の痛みが強く、食事や会話でしみる
- 数日〜10日程度で、徐々に痛みが軽くなり、自然に治っていく
- ストレスや疲れ、睡眠不足、ビタミン不足などと関係することもある
このような典型的な経過をたどり、1〜2週間以内に改善していくのであれば、通常は大きな心配はいらないことがほとんどです。
舌癌の初期症状としてよく挙げられるサイン
一方で、舌癌やその前段階として知られる病変には、次のようなサインが挙げられます。
- 2週間以上続く、同じ場所の潰瘍やただれ
- 舌の側面や裏側にできた、硬さを伴うしこりや盛り上がり
- こすっても取れない白い斑点(白板症)、赤い斑点やただれ(赤板症)
- 舌の一部のしびれ、違和感、動かしにくさ
- 食事や会話のとき、以前とは違う引っかかり感やしゃべりにくさを感じる
- 進行すると、出血しやすい・口臭が強くなるなどの症状を伴うこともある
これらの症状は必ずしも舌癌を意味するわけではありませんが、「2週間以上続く」「徐々に広がる・深くなる」「硬く盛り上がっている」といった特徴が重なるほど、専門医に評価してもらう必要性が高まります。
自分で見分けるのが難しいと言われる理由
舌の粘膜に起こる変化は、口内炎・舌炎・カンジダ症・摩擦による傷など、さまざまな原因で似たような見た目になることがあります。
さらに、
- 舌癌の初期も、見た目が「ただの口内炎」によく似ていることがある
- 逆に、見た目が派手でも、検査してみると良性だったというケースも多い
- 最終的な診断には、視診や触診に加え、必要に応じて組織を一部採取して顕微鏡で調べる(生検)ことが欠かせない
といった事情から、見た目や自己チェックだけで「これは癌」「これは違う」と判断することは、専門家であっても難しいとされています。
だからこそ、「自分で診断をつける」のではなく、「気になる変化があれば、専門家に判断してもらう」ことが大切です。
こんな症状があれば自己判断せず受診を検討してください
すぐに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科に相談したい赤信号
次のような症状がある場合は、自己判断で様子を見続けるのではなく、できるだけ早めに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科などを受診しましょう。
- 同じ場所の口内炎やただれが、2週間以上まったく良くならない
- 舌に硬いしこりがあり、触るとコリコリした感触が続いている
- 舌の側面や裏側に、「白い・赤い斑点」「ザラザラした部分」が広がってきている
- 痛みは軽くても、しびれ・違和感・動かしにくさが続いている
- 出血しやすい、血の混じった唾液が続く
- 舌の症状に加えて、首のしこり・体重減少・強い疲労感などが気になる
これらは必ずしも舌癌を意味するわけではありませんが、「早めに専門家の目でチェックしてもらうべきサイン」として考えておくと安心です。
1〜2週間以内でも早めに診てもらいたいケース
次のような場合は、2週間を待たずに相談してよいでしょう。
- これまでに口腔がんや頭頸部がんの既往がある
- 家族に舌癌・口腔がんの方がいて心配が強い
- 喫煙・多量飲酒など、リスク因子が重なっている
- 潰瘍やしこりが、数日で明らかに大きくなってきている
- 口の中の症状に加えて、耳の痛みや飲み込みにくさなどが出てきた
「2週間たっていないから、まだ行ってはいけない」ということはありません。期間に関わらず、不安が強いとき・症状が急に変化したときは、早めの相談を優先して構いません。
受診を迷っているときに考えてほしいこと
受診を迷う理由の多くは、「大げさだと思われないか」「忙しくて時間が取れない」「怖くて結果を聞きたくない」といった気持ちです。
ただ、もし問題がなければ「安心」という大きなメリットが得られますし、早期で見つかった場合も、治療の範囲が狭くて済む・後遺症が少なくて済む可能性が高まります。
反対に、「怖いから」と様子を見続けることが、結果的に一番リスクを高めてしまうこともあります。不安を少しでも軽くするための行動として、受診を捉えていただけると良いと思います。
何科に行けばいいのか分からない時の受診先と伝え方
最初に相談しやすい診療科(歯科口腔外科・耳鼻咽喉科など)
舌の症状で迷ったときに相談しやすい診療科としては、次のようなところがあります。
- 歯科・歯科口腔外科…舌や歯ぐき、口の中全体の病変を診る専門。舌癌や口腔がんの診断・治療を担当することも多いです。
- 耳鼻咽喉科…舌の奥側や喉、声帯などを含めた頭頸部全体を診てくれます。舌の症状と合わせて、喉の違和感や耳の痛みなどがある場合にも適しています。
- かかりつけの歯科医院…まず相談し、必要に応じて口腔外科や大学病院を紹介してもらうという流れもよく行われています。
どの診療科に行くか迷った場合は、通いやすいところ・相談しやすいところを選び、「舌の同じ場所の口内炎が2週間以上続いているので、不安で相談に来ました」と率直に伝えるとスムーズです。
診察前にメモしておくと診断に役立つこと
医師・歯科医師が診断しやすくなるよう、受診前に次のようなことをメモしておくと役立ちます。
- 症状が出始めた日、おおよその時期
- 痛み・しびれ・違和感の有無と程度
- 症状がある場所(舌のどのあたりか)
- 喫煙・飲酒の習慣、最近の生活の変化(ストレスや睡眠不足など)
- これまでに受けた治療(市販薬・塗り薬・うがい薬など)と、その効果
- 家族に口腔がん・頭頸部がんの既往があるかどうか
こうした情報があると、医師側も「どのくらい続いているか」「どの病気の可能性が高いか」をより的確に判断しやすくなります。
検査でよく行われることの一例
舌の病変を調べる際には、次のような検査が行われることがあります。
- 視診・触診…舌や口の中全体を見て、指で触りながら硬さや広がりを確認します。
- 組織検査(生検)…がんや前癌病変が疑われる場合、病変の一部を小さく採取して、顕微鏡で詳しく調べます。
- 必要に応じた画像検査…病状に応じて、レントゲンやCTなどが検討されることもあります。
検査の内容は症状や病院によって異なりますが、「どんな検査をしますか」「痛みはありますか」と事前に聞いておくことで、不安が少し軽くなる方も多いです。
不安を和らげるためのセルフチェックと記録の残し方
鏡を使った安全なセルフチェックのポイント
早期発見のためには、日頃から舌の状態を「なんとなく眺めておく」ことも役に立ちます。ただし、セルフチェックは診断の代わりではなく、変化に気づくための目安と考えてください。
チェックするときのポイントは次の通りです。
- 明るい場所で、手鏡や洗面台の鏡を使う
- 舌を前に出したり、左右に動かしたりして、側面・裏側までよく見る
- 無理に引っ張り過ぎたり、舌を強くこすったりしない
- 目立つ白い部分や赤い部分、しこりのような盛り上がりがないかをざっと確認する
「毎日細かく観察しなければ」と頑張りすぎる必要はありません。歯磨きや洗顔のついでに、数秒〜十数秒ほどサッと確認する程度で十分です。
スマホ写真や日記で経過を残しておくメリット
口の中の変化は、自分では「いつからあったか」「大きくなっているのか」がわかりにくいことがあります。そのため、
- 気になる部分を、数日に一度スマホで撮影しておく
- 「〇月〇日 痛みが強くなった」「食事中にしみるようになった」など簡単なメモを残す
といった記録を付けておくと、受診時に医師に説明しやすくなります。
写真を見ながら、「この2週間でどう変化したか」を一緒に確認してもらえると、診断や治療方針の決定にも役立ちます。
セルフチェックだけで「大丈夫」と決めつけないために
セルフチェックは、「変化に早く気づくための道具」です。「自分で調べてみて大丈夫そうだから、もう受診しなくていい」と自己完結してしまうためのものではありません。
特に、
- 2週間以上同じ場所に症状が続いている
- 少しずつ広がる・深くなっている
- 硬さやしこりを感じる
といった場合は、セルフチェックの結果にかかわらず、専門家の判断を仰ぐようにしてください。
よくある3つのケースから見る「心配した方がいい時」と「し過ぎなくていい時」
ここでは、実際に医療機関の情報や相談事例を参考にした「よくあるパターン」をもとに、3つのケースを紹介します。
個人が特定されないよう配慮した架空のケースですが、「受診してどうなったか」をイメージする一助になれば幸いです。
ケース1 二週間続いたが、検査で「炎症」と分かり経過観察になった例
30代女性。舌の側面に白っぽい口内炎ができ、痛みはそれほど強くないものの、2週間ほど同じ場所で続いていました。インターネットで調べるうちに「舌癌の初期症状」と書かれている記事を見て、不安になって受診。
歯科口腔外科で視診・触診とレントゲンを受けた結果、合わない詰め物が舌をこすり続けたことによる慢性的な炎症と分かり、がんの疑いは低いと説明されました。詰め物を調整してもらい、1〜2週間で症状は改善。
「心配し過ぎだったかもしれないけれど、受診して安心できてよかった」と感じるケースです。
ケース2 早めの受診で不安が解消された例
40代男性。舌の裏側に小さな赤いただれができて、一度は良くなったものの、数カ月の間に何度か同じ場所に再発していました。喫煙と飲酒の習慣があり、家族にがんの既往があることから、「念のため」と早めに耳鼻咽喉科を受診。
視診と触診の結果、現時点ではがんを疑う所見は乏しいものの、慢性刺激による炎症が続きやすい状態と指摘され、禁煙と飲酒量の見直し、数カ月ごとの経過観察を提案されました。
この方は、「今の段階で大きな病気ではないこと」「生活習慣を見直せばリスクを下げられること」を知り、受診後には不安がかなり軽くなったそうです。
ケース3 舌癌と診断されたが、早期発見で治療できた例
50代女性。舌の側面のしこりと違和感が続き、最初は「口内炎かな」と思っていましたが、2週間たっても治らず、少しずつ大きくなっているように感じたため、歯科口腔外科を受診しました。
視診・触診の後に生検を行った結果、早期の舌癌と診断。手術と放射線治療を受けることになりましたが、比較的早い段階で見つかったため、舌の機能をできるだけ温存した形で治療が行われ、リハビリを経て日常生活に復帰しています。
このケースのポイントは、「怖いけれど受診した」ことにより、治療の負担や後遺症を最小限に抑えるチャンスをつかめたという点です。
舌の口内炎を悪化させないために自宅でできるセルフケア
刺激の強いケアを避けて粘膜を守るコツ
舌の口内炎やただれがあるときは、無理なセルフケアがかえって症状を長引かせてしまうことがあります。次のような点に気をつけてみてください。
- 熱い飲み物や、極端に辛い・酸っぱい料理は控えめにする
- ザラザラした硬い食べ物(堅焼きせんべい・フランスパンの耳など)は、患部に当たらないよう工夫する
- 歯ブラシを奥まで強く入れ過ぎない
- 市販のうがい薬を使う場合も、用法・用量を守る
基本は、舌の粘膜を「乾燥させない」「こすり過ぎない」「熱や刺激から守る」ことです。
舌を強くこすらない・アルコールや喫煙を控える理由
舌苔や口臭が気になると、強くゴシゴシと舌をこすりたくなるかもしれませんが、摩擦が舌の粘膜にとって大きな負担になります。傷ついた部分は炎症を起こしやすく、治りも遅くなってしまいます。
また、喫煙や多量の飲酒は、舌癌を含む口腔がんのリスクを高める要因として知られています。すぐに完全にやめることが難しい場合でも、
- 本数を減らす
- 週に何日かは休肝日を作る
といった小さな一歩から始めてみることで、舌の粘膜への負担を減らすことにつながります。
口臭や舌苔が気になるときの補助的なケアの考え方
舌の口内炎やただれがあるときは、舌苔を無理に削り取ろうとしないことが大前提です。舌の状態が落ち着いてきたら、
- やわらかめのブラシや舌ブラシで、表面をなでる程度にとどめる
- アルカリ性のうがいなど、刺激の少ない洗浄を取り入れる
といった、優しいケアを中心に考えてください。
詳しい舌苔ケアや口臭対策については、別の記事でくわしく解説していますので、そちらも参考にしていただければと思います。
まとめ 2週間以上続く舌の口内炎は一人で抱え込まず専門家に相談を
このページでお伝えしたかったことの振り返り
- 舌の口内炎の多くは良性ですが、同じ場所の症状が2週間以上続く場合は専門家に相談した方が安心です。
- 舌癌の初期症状は口内炎とよく似ており、見た目や痛みだけで自分で見分けることは難しいとされています。
- 不安を抱えたまま様子を見続けるより、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科などで早めにチェックしてもらう方が、治療の負担や心の負担を減らせる可能性が高いです。
不安なときに今日できる一歩
もし今、舌の症状が気になってこのページをご覧になっているなら、次のうちどれか一つだけでも、今日できることを選んでみてください。
- カレンダーを見て、「症状が出始めたおおよその日」をメモする
- 鏡で軽く舌を確認し、気になる部分をスマホで撮影しておく
- 通いやすい歯科医院・耳鼻咽喉科を一つリストアップし、受付時間を調べる
- 「2週間続いているので一度診てほしい」とメモに書き、受診の際に見せられるよう準備する
どれも小さな一歩ですが、その一歩が「必要な検査や治療につながる道」を切り開いてくれます。不安を一人で抱え込まず、あなたの体の変化にしっかり耳を傾けてくれる医師・歯科医師に、ぜひ相談してみてくださいね。
参考文献
- 日本歯科医師会-お口の119 口内炎などができた
- 日本歯科医師会-口の中の腫瘍 – 歯とお口のことなら何でもわかる
- 厚生労働省-口内炎と重篤副作用疾患別対応マニュアル
- 日本医師会-健康の森/口内炎
- 国立がん研究センターがん情報サービス|口腔がん
- Medical Note|舌がんの初期症状とセルフチェック
- 日本口腔外科学会|口腔がんの早期発見と対策
- 舌がんの病期 東京医科大学病院
- 厚生労働省 がん対策推進に対する歯科医師の取り組みについて
- 日本癌治療学会 がん診療ガイドライン






