歯根に膿がたまったら|痛みの原因・治療の流れ・受診目安とNG行為【患者向けガイド】

最終更新:2025-10-27|監修:歯科衛生士 上林ミヤコ/執筆:上林登(口腔ケアアンバサダー)

まず結論|歯根の膿(多くは根尖性歯周炎)は自然治癒がまれ。原因歯の治療(根管治療/必要に応じて切開排膿)が基本です。
🚨 赤旗(当日受診・救急の目安)
  • 38℃以上の発熱/顔の強い腫れ
  • 口が開けづらい・飲み込みづらい・息苦しい
  • 妊娠中・糖尿病など免疫低下がある
🧊 今日できる応急ケア
  • 患部の外側をやさしく冷やす・安静
  • 頭を高くして休む/市販鎮痛薬は用法用量で
  • ぬるま湯でうがい(こすらない)
❌ NG行為
  • 自己流の切開・強く揉む/温める
  • 抗生物質の自己判断(飲み残し・個人輸入)
  • 飲酒・喫煙・激しい運動

抗生物質は補助であり、原因除去(根管治療など)に代わるものではありません。

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症状の見分け|痛み・腫れ・膿・口臭のチェックリスト

歯根に膿がたまると、次のようなサインが現れます。該当が多いほど受診優先度は高めです。

  • 噛むとズキッと痛い/自発痛がある
  • 歯ぐきがぷよっと腫れる・白い点(にきび状の出口=瘻孔)
  • 口臭が強くなる・金属味/苦い味が続く
  • 触れると浮いた感じ・歯が長くなった気がする

噛むと痛い・ズキズキする:急性の可能性

急性期は炎症が強く、咬む刺激で痛みが増します。放置すると腫れや発熱につながるため早期受診が大切です。

歯ぐきの白い点(瘻孔)や膿:慢性化のサイン

白い点から膿が出入りして痛みが弱い場合でも、感染源は残っています。再燃や骨の吸収を防ぐため治療が必要です。

口臭が強い・味が苦い

膿や壊死組織に由来する成分がにおいの悪化に関与します。こすり洗いは粘膜を傷め逆効果。やさしい清掃にとどめ、受診で原因治療を。

原因と仕組み|虫歯から根尖膿瘍に至るまで

虫歯→歯髄炎→歯髄壊死→根尖膿瘍の進行図

多くは「むし歯放置→歯髄炎→歯髄壊死→根の先(根尖)に感染が広がる」という流れです。既に根管治療を受けた歯でも、封鎖不全や被せ物の隙間などから再感染が起きることがあります。

歯周病の手遅れ症状はこちら

既治療歯の再感染(マイクロリーケージ)

古い充填材や被せ物の適合不良、唾液汚染などで細菌が侵入すると再燃します。再根管治療での再清掃・再封鎖が基本です。

歯根破折が疑われるケース

噛む度にピンポイントの痛み、歯ぐきの一点からの持続的な膿、レントゲンで線状陰影などは破折の示唆。保存困難で抜歯が選択されることがあります。

歯周病由来・外傷性などの鑑別

深い歯周ポケットや外傷(転倒・硬い物を噛んだ等)も原因になり得ます。診査診断で原因を特定し、治療方針が決まります。

検査で何が分かる?レントゲン/CTの見どころ

デンタルX線:根尖透過像・骨の変化

根の先の黒い影(透過像)が病変の目安です。ただし初期や部位により写りにくいこともあります。

CBCT(3D)の有用性:破折・複雑形態の把握

縦破折の疑い、複雑な根管形態、上顎洞近接などではCBCTが適切な治療選択に役立ちます。

問診の重要性

痛みの経過、発熱の有無、既往歴・服薬(特に抗凝固薬・免疫抑制薬)、妊娠の有無などを共有しましょう。

治療の全体像(痛み・回数・期間の目安)

基本は「感染源の除去」と「再感染の予防」です。

切開排膿が必要な場面と術後経過

膿が閉じ込められて強い腫れ・痛みがあるとき、切開で排出して痛みを和らげます。術後は数日で腫れが引くのが一般的です。

根管治療の流れ(除菌→貼薬→根管充填→最終補綴)

  1. 根管内の感染物質を除去・洗浄(防湿・拡大)
  2. 貼薬して仮封(数日〜数週)
  3. 症状の安定後、根管充填で緊密封鎖
  4. 土台・被せ物で再感染を予防

回数目安は2〜4回(症状・難易度により前後)。

再根管治療と外科的歯内療法(根尖切除)の選択

再根管で届かない感染源が根尖側に残る場合、外科的に除去して逆根管充填を行う選択もあります。症例選択と術前画像評価が重要です。

保存困難時の抜歯と補綴の選択肢

縦破折や重度の骨吸収などで保存が難しい場合は抜歯となり、ブリッジ・義歯・インプラントなどで欠損補綴を検討します。

治療法の比較(目的・回数・痛み・再発傾向)

治療 目的・適応 回数の目安 処置中の痛み 再発傾向(定性) 備考
再根管治療 根管内の感染源を再清掃し、再封鎖 2〜4回 局所麻酔でコントロール可 適切であれば良好 被せ物の再製作が必要な場合あり
外科的歯内療法(根尖切除) 根尖側から病変・原因を直接除去 1回(+経過観察) 術後に腫れ・痛みが出ることあり 症例選択で良好 CBCTで事前評価が有用
抜歯(保存困難時) 破折や重度病変などで保存不可のとき 1回(+補綴へ) 局所麻酔でコントロール可 再発の概念なし(欠損管理が必要) ブリッジ/義歯/インプラントを検討

※費用や適用は医院・症例で変わります。詳細は担当医でご確認ください。

抗生物質の位置づけ|いつ使う?限界と注意

全身症状(発熱・顔面腫脹が強い等)や広範な感染が疑われる場合に、原因治療と併用されます。一方、痛みだけ・限局した病変などでは、抗生物質単独投与の有効性は限定的とされています。自己判断での服用は耐性菌や副作用のリスクがあるため避けましょう。

痛み・腫れはいつ引く?症状の時間軸とセルフケア

治療当日〜72時間の目安

  • 当日〜24時間:術後痛・違和感が出ることあり。無理に噛まない。
  • 24〜48時間:腫れ・痛みはピークを越えることが多い。
  • 48〜72時間:多くは落ち着き始める。悪化する場合は再受診。

セルフケアのコツ

  • 冷却はガンガン冷やさず、タオル越しに短時間
  • 就寝時は頭を高く/うつ伏せを避ける
  • 清掃はやさしく、うがいはぬるま湯で

治らない・また膿がたまる原因と対策

根管内の残存感染・根尖側封鎖不全

細菌やバイオフィルムが残り、充填が不十分だと再発します。マイクロスコープを用いた再根管治療など再介入を検討します。

歯根破折・複雑形態

縦破折は保存困難なことが多く、抜歯を含めた治療計画に切り替えます。

被せ物の適合・咬合・歯ぎしり

適合不良や過大な咬合力は再発要因です。被せ物の再製作・ナイトガードなどで再感染を予防します。

再発予防と日常ケア

  • 定期検診/必要に応じて画像フォロー
  • 被せ物の適合確認・咬合調整
  • ホームケアは「やさしく・ていねいに」。強い力の磨きすぎはトラブルの元

受診時の準備チェックリスト

  • 症状のはじまり/強さ/増減のメモ
  • 既往歴・服薬(特に抗凝固薬・糖尿病薬など)
  • 妊娠の有無/アレルギー歴

よくある質問(Q&A)

抗生物質だけで治りますか?

一時的に和らぐことはあっても、原因となる感染源が残れば再燃します。歯科での原因治療が基本です。

切開は痛い?腫れはいつ引く?

麻酔下で行い、術後に腫れ・痛みが数日出ることがあります。冷却・鎮痛薬でコントロール可能です。

レントゲンで全部わかる?CTは必要?

多くはデンタルX線で評価可能ですが、破折疑い・複雑形態ではCBCTが有用です。

治療回数・期間の目安は?

2〜4回が一つの目安です(症状・難易度で増減)。

隣の歯まで痛いのはなぜ?

炎症や噛み合わせの影響による関連痛のことがあります。自己判断せず受診で評価しましょう。

参考・根拠

  • American Dental Association. Antibiotics for Dental Pain and Swelling Guideline(2019) 公式ページチェアサイドガイドPDF
  • Lockhart PB, et al. Evidence-based clinical practice guideline on antibiotic use… JADA. 2019;150(11):906–921.e12. フルテキストPMCID
  • Cope AL, et al. Systemic antibiotics for symptomatic apical periodontitis and acute apical abscess in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2018(2024更新)。 CochranePubMed
  • AAE. Guidance on the Use of Systemic Antibiotics in Endodontics(ポジションステートメント)。 PDF
  • CBCTの有用性に関する総説・レビュー Review(2023, PMC)Patel 2019(Europe PMC)
  • CDC × ADA. Be Antibiotics Aware – Treating Patients with Dental Pain and Swelling(患者教育PDF)。 PDF

口臭はアルカリうがいでケアするのがおすすめ