こんにちは、口腔ケアアンバサダー(社団法人 日本口腔ケア学会認定)の上林登です。私は長年、歯科技工士としてセラミックの被せ物や差し歯を「つくる側」として現場に関わってきました。その後、口臭やドライマウスなどのお悩み相談に乗る立場になり、いまは「つくる側」と「ケアする側」の両方の視点から情報発信をしています。
「高いお金を払ってセラミックにしたのに、前より口臭が気になる気がする…」「これは治療の失敗?それとも自分のケア不足?」──そんな不安を抱えてこの記事にたどり着かれたのだと思います。
結論からお伝えすると、セラミックそのものが臭っているケースはほとんどありません。多くは、セラミックの周りにできた「汚れのたまり場」や、歯周病・舌苔・ドライマウスなどが重なっているパターンです。
この記事では、セラミック治療後の口臭が起こる仕組みとセルフケアの限界ライン、そして歯科で相談すべきサインを、歯科技工士としての現場経験も交えながら、できるだけ分かりやすくお話しします。
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療に代わるものではありません。気になる症状があれば、必ず歯科医院で相談してください。
まず結論|セラミック自体はほぼ臭わないが「隙間・設計・歯周病」でニオイが出ます
セラミックは本来、歯垢(プラーク)が付きにくい素材です
セラミック(オールセラミックやジルコニアなど)は、表面がとてもツルツルしていて、歯垢(細菌のかたまり)が付きにくい素材です。歯科材料学の研究でも、表面がなめらかなセラミックは、金属やプラスチックに比べて細菌の付着が少ないことが報告されています。
つまり、「セラミックにしたから口臭がひどくなる」というのは誤解で、素材そのものはむしろ口臭の観点からは有利なことが多いのです。
それでも臭うときは「どこかに汚れのたまり場がある」サイン
では、なぜ「セラミックにしたのに口が臭う」と感じる人がいるのでしょうか。多くの場合、次のような原因が重なっています。
- セラミックと歯の間にできた「ごく小さな段差」や「隙間」に歯垢がたまっている
- 歯ぐきとの境目(歯肉縁)周りが磨きにくい形になっている
- もともとあった歯周病や根の病気が治りきっていない、または進行している
- ドライマウス(唾液の減少)や舌苔など、口腔環境の悪化が重なっている
こうした「汚れのたまり場」で、細菌がタンパク汚れを分解すると、 揮発性硫黄化合物(VSC)というニオイ物質が発生し、口臭として感じられます。 厚生労働省 e-ヘルスネット「口臭の原因・実態」 でも、口臭の多くは舌苔と歯周病が主な原因と説明されています。
言い換えると、問題は「セラミック」ではなく、「設計・適合・歯ぐきや根の状態・お口全体のケア」にあることがほとんどなのです。
30秒セルフチェック|あなたの「セラミック口臭タイプ」はどれ?
まずは、ご自身の状態をざっくり把握してみましょう。次の3つのパターンのうち、どれに近いかチェックしてみてください。
タイプ1:治療直後から「ドブ臭い」「薬品っぽい匂い」が続く
- セラミックを入れてから数日〜数週間以内に、強い悪臭を感じるようになった
- 「排水溝のようなニオイ」「薬っぽいツンとしたニオイ」がする
- 冷たいものや噛んだときにズキッと痛むことがある
このタイプは、根の治療が不十分だったり、歯根のトラブル(根尖病変・ひび・歯根破折など)が隠れている可能性があります。治療直後から強いニオイが続く場合は、セルフケアだけで様子を見るのは危険です。
タイプ2:数年経ってから、じわじわとニオイが気になってきた
- セラミックを入れて数年は快適だったが、最近になってニオイが気になる
- 歯と歯ぐきの境目に、糸ようじが引っかかる・ザラつく感覚がある
- 歯ぐきが少し下がってきた、出血しやすい
このタイプは、
- ハイブリッドセラミック(レジンを含むタイプ)の経年劣化
- 接着剤の劣化やごく小さな隙間の発生
- 歯周病の進行
といった「経年的な変化」+「メンテナンス不足」が重なっていることが多いです。早めに歯科でチェックしつつ、セルフケアも見直したいタイプです。
タイプ3:ニオイ+痛み・腫れ・膿のような匂いがある(レッドフラグ)
- 歯ぐきが腫れている・押すと痛い
- 膿のような味や、鼻に抜けるような強い悪臭がある
- 頬が腫れた、噛むと強く痛む、といった症状がある
この場合は、急性の炎症や膿が関わっている可能性が高く、すぐに歯科受診が必要です。市販薬やうがい薬で我慢し続けると、痛みが一時的に引いても、根の中で病変が大きくなることがあります。
どのタイプにも当てはまらない場合でも、「なんとなく前より臭う気がする」「家族に指摘された」という段階で一度検診を受けておくと、早めに対処しやすくなります。
セラミック治療後に特有の4つの原因
セラミック以外も含めて「被せ物そのものが臭うとき」の原因とセルフケアを詳しく知りたい方は、 「被せ物が臭い?5つの原因と即効セルフケア」 も参考になります。
1.適合不良と「磨けない形」のセラミック
歯科技工士としての感覚から言うと、口臭リスクを大きく左右するのは「どれだけきれいに磨ける形か」です。
セラミックが次のような状態だと、そこが細菌の温床になり、ニオイの原因になります。
- 歯とセラミックの境目に段差がある
- 歯ぐきの奥まで深く入り込みすぎていて、ブラシの毛先が届かない
- 歯と歯の間が極端に狭く、フロスが入りにくい
患者さん側からは見えにくい部分ですが、「どう設計したか」「どれだけ精密に適合させたか」で、同じセラミックでも口臭リスクは大きく変わります。
セラミックブリッジで「ポンティック裏のドブ臭」が気になる方は、 「ブリッジ歯がドブ臭い⁉︎ 4大原因と5分でできる即効ケア完全ガイド」 で、ブリッジ特有の原因と対策もチェックしてみてください。
2.ハイブリッドセラミック・古い接着剤の劣化
ハイブリッドセラミック(セラミック+レジン)は、見た目が自然で費用も比較的抑えられる一方で、水分を吸いやすく、経年劣化しやすい素材でもあります。時間が経つと色が変わったり、表面がザラついてプラークが付きやすくなったりします。
また、歯とセラミックをくっつけている接着剤(セメント)も、長年使ううちに少しずつ劣化し、
- 微小な隙間から唾液や細菌が入り込む
- 内部で歯の根が虫歯や炎症を起こす
といったトラブルにつながることがあります。この場合、外から見ても気づきにくく、「なんとなく臭う」「ときどき痛い」くらいのサインしか出ないこともあります。
3.歯根の感染・歯周病が残った(または進行した)ケース
セラミックをかぶせる前に、神経を取ったり、歯周病の治療をしたりしている場合、その部分の炎症が完全に落ち着いていないまま被せてしまうことがあります。
- 根の先に膿の袋が残っている
- 歯周ポケットが深いままになっている
- 噛み合わせが強すぎて、歯や歯周組織に負担がかかっている
こうした状態では、内側で炎症がじわじわ進行し、膿や血液が混ざったニオイを発することがあります。これはセルフケアではどうにもならず、歯科での検査と治療が必要です。
4.実はセラミック無関係な「ドライマウス・舌苔・胃腸」の影響
厚生労働省e-ヘルスネットや8020推進財団の資料でも、口臭の多くは舌苔と歯周病、そして唾液の減少(ドライマウス)と説明されています。セラミック治療をきっかけにお口の中を気にするようになり、もともとの口臭に気づいた、というケースも少なくありません。
- 舌の表面が白く・黄色くなっている(舌苔)
- 起床時や緊張時に口がカラカラになる
- 胃の不調・逆流性食道炎・便秘などの消化器症状がある
これらはセラミックとは別ルートの口臭原因であり、対応の仕方も異なります。「セラミックを全部やり直せば治る」と考えてしまうと、必要のない再治療や出費につながりかねません。
口臭全体のタイプやセルフケアの方向性を整理したい方は、 8020推進財団コラム「ちょっと気になる…口の臭い(口臭の4つのタイプとその対策)」 も参考になります。
私も経験しました|セラミック治療後の口臭が落ち着くまで
ここで、私自身の体験も少しだけお話しします。
私も過去に、前歯をセラミックにする治療を受けたことがあります。治療直後は見た目の変化がとてもうれしかったのですが、数か月たったころから、
- 朝起きたときの口のニオイが気になる
- 歯ぐきの境目がザラついて、フロスが引っかかる
という状態になりました。当時は忙しさからブラッシングも「ササッと」程度で、歯周病ケアも十分ではありませんでした。
歯科でチェックしてもらうと、セラミック自体は問題ないものの、歯ぐきとの境目に歯垢と歯石がたまり、軽い歯周炎になっているとのこと。クリーニングとブラッシングの見直し、フロスの習慣化、舌苔ケアを続けたところ、数週間でニオイはほとんど気にならなくなりました。
この経験から学んだのは、「高いセラミックにしたからもう安心」ではなく、「セラミックだからこそ、きれいな状態を維持するメンテナンスが必須」だということです。
知恵袋に見る3つの悩みタイプと、専門家の視点
Yahoo!知恵袋などを見ていると、セラミックと口臭に関する相談は、大きく次の3つのパターンに分かれます。
1.「高いセラミックにしたのに失敗?」という後悔型
代表的な投稿内容:
- 「100万円かけてセラミック矯正したのに口臭がきついと言われた」
- 「安いクリニックで短期間でセラミックにしたが、ドブ臭い」
このタイプでは、
- 設計や適合が不十分で磨けない形になっている
- 根の治療が不完全で炎症が続いている
- 噛み合わせが無理に変えられて、歯や骨に負担がかかっている
といった問題が疑われます。セルフケアだけでは改善できないケースも多く、レントゲンやCTを含めた再評価が必要なパターンです。
2.「自分のケアが悪いのかも…」という罪悪感型
代表的な投稿内容:
- 「セラミックを入れてから口臭が気になり、毎日ゴシゴシ磨いている」
- 「1日に何度も強く舌をこすってしまう」
一生懸命ケアしようとして、逆に
- 歯ぐきや舌を傷つけて炎症を起こす
- アルコール入りのマウスウォッシュを何度も使い、ドライマウスを悪化させる
という悪循環に陥っている方が多く見られます。「やり過ぎ」が口臭を強くしているパターンです。
3.「セラミックは危険?」という誤解型
代表的な投稿内容:
- 「セラミック矯正は全部歯を削るから、口臭や虫歯だらけになると聞いた」
- 「セラミックにすると歯がボロボロになるって本当?」
確かに、極端なセラミック矯正や、安さだけを売りにした広告には注意が必要です。しかし、適切な診査診断と設計、精密な治療、定期的なメンテナンスがあれば、セラミックが特別危険というわけではありません。
専門家の立場から言うと、
- 素材自体よりも「削る量」「設計」「メンテナンス」の方がずっと大事
- セラミックへの不安で頭がいっぱいになり、本当の原因(舌苔・歯周病・胃腸など)を見落とさないこと
がポイントです。
今日からできるセルフケア|これ以上は一人で頑張らなくていいライン
セラミック周りのブラッシング&フロスのコツ
セラミックを長持ちさせ、口臭を防ぐための基本は、「境目をていねいに、でも強くこすりすぎない」ことです。
- 歯ブラシは毛先のそろったやわらかめ〜ふつう
- 歯と歯ぐきの境目に45度くらいの角度で当て、小刻みに動かす
- 歯と歯の間はフロスか歯間ブラシで、引っかかりやザラつきのチェックも兼ねる
力を入れすぎると、歯ぐきが下がり、さらにセラミックの根元が露出して汚れがたまりやすくなります。「歯ブラシの毛先だけを動かす」イメージで行いましょう。
舌苔・ドライマウスケアで「においの温床」を減らす
舌苔とドライマウスは、セラミックに関係なく口臭全般の大きな要因です。
- 舌ブラシややわらかいブラシで、舌を奥から手前に軽くなでる(やり過ぎ注意)
- こまめな水分補給(「一気飲み」ではなく少量を何度も)
- 鼻呼吸を意識し、口呼吸のクセを減らす
- キシリトールガムなどで唾液を促す
アルコールの強いマウスウォッシュは、かえって口の乾燥を進めてしまうことがあるため、刺激の少ない洗口液や、お水に溶かして使うタイプの洗浄ケアを選ぶと安心です。
舌苔の安全な取り方や、綿棒・コットンを使った具体的な手順は、 「舌苔の取り方は綿棒で“削らず”なで流す|朝1回・5〜10秒の安全手順」 で詳しく解説しています。
舌苔やドライマウスと口臭の関係については、 日本歯科医師会「お口のなんでも相談『口臭』」 でも、マスク生活や口呼吸との関係を含めて分かりやすく解説されています。
NGセルフケア|やりがちな「逆効果」行動
- 1日に何度も強く舌をこする
- セラミックの隙間をようじやピンなど硬いものでほじる
- しみるほど強いミント・アルコール入りマウスウォッシュを頻繁に使う
これらは一時的にスッキリしたように感じても、粘膜や歯ぐきを傷つけたり、ドライマウスを悪化させたりする原因になります。「よかれと思って続けたことが、かえって口臭を強くしていた」という方も少なくありません。
歯科で相談すべきサインと、よくある治療の流れ
セルフケア+定期クリーニングで落ち着くケース
次のようなケースでは、
- ニオイは軽度〜中等度
- 歯ぐきの腫れや強い痛みはない
- レントゲンで根の先に大きな病変はない
クリニックでの歯石除去や、ブラッシング指導、噛み合わせの微調整などで改善することが多いです。
この場合、「セラミック自体の作り直し」ではなく、「周りの環境整備」がメインの治療になります。
セラミックの再設計・再製作が必要になるケース
次のような場合は、セラミックのやり直しや再設計を検討することがあります。
- どう磨いてもフロスが通らない・いつも同じところが引っかかる
- 歯とセラミックの境目に大きな段差・黒い影が見える
- レントゲンで、歯根の先や周囲に明らかな病変が見つかる
再治療は時間も費用もかかりますが、無理にそのまま使い続けると、歯そのものの寿命を縮めてしまうこともあります。信頼できる歯科医師とよく相談し、メリット・デメリット、費用と予後を説明してもらった上で決めていきましょう。
今の医院か?セカンドオピニオンか?迷ったときのヒント
「このままで大丈夫と言われたけれど、どうしても不安が消えない」「本当に原因を見てくれているのか分からない」──そんなときは、セカンドオピニオンを受けるのも一つの方法です。
相談のときに、次のような質問をしてみてください。
- 「口臭の原因として考えられるものを、優先順に教えてもらえますか?」
- 「セラミック自体の問題と、歯周病や舌苔・ドライマウスなどの問題は、それぞれどれくらいありそうですか?」
- 「再治療しなかった場合のリスクと、再治療した場合のメリット・デメリットを教えてください」
原因と選択肢を、かみ砕いて説明してくれるかどうかは、その歯科医院と長く付き合っていけるかどうかの一つの判断材料になります。
よくある質問(FAQ)
Q1.全部セラミックにすれば、口臭はなくなりますか?
A.残念ながら、「全部セラミック=口臭ゼロ」ではありません。口臭の多くは舌苔や歯周病、ドライマウスが原因とされており、素材をセラミックに変えるだけでは解決しないことがほとんどです。セラミックはあくまで「汚れが付きにくい環境づくりの一部」であり、日々のセルフケアと定期的なメンテナンスが欠かせません。
Q2.ハイブリッドセラミックは早めにジルコニアやオールセラミックに変えたほうがいいですか?
A.ハイブリッドセラミックは経年劣化しやすい素材ですが、すぐに全てやり直す必要があるとは限りません。見た目や噛み合わせ、レントゲン所見、歯周組織の状態などを総合的に見て判断します。気になる場合は、「いつ・どんなサインが出てきたら交換を考えるべきか」を担当医と具体的に話し合うと安心です。
Q3.どのくらいのペースで歯科に通えば、セラミックの口臭リスクを減らせますか?
A.一般的には、3〜6か月に1回のメンテナンスが推奨されます。歯周病のリスクが高い方や、すでに問題が出ている方は、もう少し短い間隔で通うこともあります。メンテナンスでは、セラミック周りの歯垢・歯石除去、噛み合わせの確認、根や歯ぐきの状態チェックなどを行い、トラブルの早期発見につながります。
Q4.市販のマウスウォッシュだけで、セラミックの口臭は防げますか?
A.マウスウォッシュはあくまで補助的なケアです。歯と歯の間やセラミック周りの歯垢は、マウスウォッシュだけでは十分に落とせません。ブラッシング・フロス・舌苔ケアを基本にし、刺激の少ない洗口液を「仕上げ」として使う、という位置づけがおすすめです。
Q5.「においの元」がセラミックなのか、それ以外なのか、自分で見分ける方法はありますか?
A.完全に自分だけで見分けるのは難しいですが、目安としては次のようなポイントがあります。
- セラミック周りだけ歯ぐきが赤い・腫れている → セラミック周辺の歯周炎や適合不良の可能性
- 舌全体が白い・黄色い、口の乾燥が強い → 舌苔やドライマウスの影響が大きい
- 胃のムカつきや逆流感、便秘などもある → 胃腸由来の口臭が混ざっている可能性
いずれにせよ、セラミックにだけ原因を決めつけず、「口の中全体」+「全身状態」も含めて歯科で評価してもらうことが大切です。
セラミック治療は、見た目や噛み心地を大きく変えてくれる一方で、「本当にこれでよかったのか?」という不安も抱えやすい治療です。この記事が、原因の整理や次の一歩を考えるヒントになりましたら幸いです。
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