インプラントのメリットとデメリット
口腔ケアアドバイザー(一般社団法人日本口腔ケア学会認定)の上林です。
インプラントにしたから歯周病にならないなんてことはない
「歯槽膿漏(歯周病)がひどいから抜歯してインプラントにしたのに、また歯周病になった。。。」
このように困っている方が多くおられます。歯槽膿漏(重度歯周病)になると、治療をしても何度も再発し歯ぐきが腫れたり痛くなることがあります。それだけではなく、口臭もひどくなる!
「思い切ってインプラントにしたらすべて解決するかもしれない。」このようにお考えの方もおられるかも。でも、ちょっと待ってください!
インプラントにしても、また歯周病になるかもしれないということを知っておいてほしいです。インプラントに関しては良い情報ばかりありますが、インプラントにもメリット・デメリットがあります。
その上でインプラントをご検討されてはいかがでしょう。
今回の記事では、インプラントを入れるメリットとデメリットついてお伝えします。是非ご参考にしてください。
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インプラントを入れたら歯周病になった?
インプラントを入れてから歯周病(正しくはインプラント周囲炎)になったという方がおられます。折角、高価なインプラントを入れたのに歯周病になっては、、、なんのために、無理をしたのか分からない。。。
インプラントは単体(1本)で入れることもありますが、インプラント治療では圧倒的にブリッジや義歯のケースが多いようです。
このように、インプラント治療を受けられる人の多くは、抜歯して歯がない、もしくは、抜歯しなければならない状況にあります。インプラント治療を受ける人は、どうしてこれほど歯が悪くなったと思いますか?
それは、歯周病(または虫歯)に感染して重症化したからです。
歯周病になりやすい人には特徴があります。それは…
- ブラッシングケアが上手に出来ていない
- 唾液が少ないとか口呼吸によるドライマウス
2つのうちでも、ブラッシングケアができていないと、歯周病になりやすい。歯磨きが出来ていなければ、歯垢がつくので歯周病になりやすいのは当然です。
ブラッシングが上手くできない人がインプラントを入れた後、果たして上手にブラッシングできるでしょうか?
このことが問題です。だから、インプラント治療後に歯周病(インプラント周囲炎)になることがあるのです。
インプラントにしても歯周病になるのは?
インプラントは、高価な歯なのに…。入れてからトラブルが起きることがあるって知っていましたか?
インプラントだからといって万能の歯ではありません。歯周病と同じインプラント周囲炎になることもあります。
元々、インプラントにする人の場合、歯周病の人が多いです。
歯周病になったからといって、歯磨きをおろそかにしたわけではありません。歯周病になるには、いろんな原因があります。
歯周病になる原因
- 歯磨き不足
- 唾液分泌が少ないドライマウス
- 口呼吸・いびき
- 薬の副作用で唾液が出ない
- 糖尿病
- 内科的疾患
このようなことがあると歯周病になるリスクが高くなります。
歯周病におすすめの歯磨き粉は、こちら『歯周病に効く市販の薬と歯磨き粉はコレ!正しい使い方はコレ!』をご参考にしてください。
それらが原因で歯周病になったとしたら、インプラントにしてからも歯周病になるリスクが高いということです。
誤解のないようにいうと、インプラントの場合には、歯周炎(歯周病)とは呼ばずに、「インプラント周囲炎」といいます。
でも、歯がインプラントになっただけで同じことです。
歯周病は、歯と歯茎の間の溝に歯周病菌が繁殖し歯茎に炎症を起こすことで始まります。歯周病菌が産生する毒ガスによって歯茎が傷つき、歯周ポケットが形成される。
歯周ポケットの中に、膿がたまり更に炎症が起き、口臭も発生する。というように徐々に歯周病は進行します。
これとほとんど同じことが、インプラントの上部に被せた冠と歯茎の間の溝に歯周病菌が繁殖します。そして、インプラント周囲炎へと進行します。
だから、出血も起きるし、口臭が発生することがあってもおかしくないのです。
インプラント先進国のヨーロッパでは、このインプラント周囲炎が一番の問題になっているそう。
天然歯における歯周病と同じようなインプラント周囲への感染による病気あるいは失敗はないと考えられていました。
しかし、1990年代に入ると留学先の研究室では、ベーグルンド先生(現イエテボリ大学歯周病学科教授)がビーグル犬を使った一連の実験によって、インプラント周囲もプラーク(細菌の塊)により歯周病と同じような病気が発現し進行していく事を発表しました。
引用:スウェーデンデンタルセンター
ヨーロッパ歯周病学会のコンセンサスレポートでは、患者割合で28%~54%との報告も。
これって、2~3人に一人の割合で、インプラント周囲炎になっている確率です。
歯周病(歯肉炎・歯周炎)
歯周病は、歯についたプラークによっておこる感染症です。歯周病は、歯肉炎からはじまりますが、ほっておくと進行し歯根をつたわり、歯を支えている組織を壊します。つまり、セメント質、歯根膜、歯周靭帯、歯槽骨を破壊するのです。この状態を歯周炎といいます。
インプラント周囲炎
プラークは口の中の固いものに付着しますが、歯と同じようにインプラントにもプラークは付着します。
インプラントにプラークが付着すると周囲粘膜にも歯肉炎と同様に炎症が発症します。
インプラント周囲口腔粘膜に限局した炎症が起こることをインプラント周囲粘膜炎といいます。
インプラント周囲粘膜炎も歯肉炎と同様に歯ブラシなどでプラークを除去すれば治すことが可能です。歯周病が歯面にそって進行するように、このインプラント周囲粘膜炎も放っておくとインプラントに沿って感染が進行しインプラントを支えている骨が喪失します。
この状態がインプラント周囲炎です。引用:スウェーデンデンタルセンター
歯周病の場合は、歯ぐきが腫れる、痛みがある、膿がでる、歯が動くなどありますが、インプラントの場合は、痛みも歯の動揺もないのでふつうに食事ができます。
そのため、知らず知らずのうちにインプラント周囲炎(歯周病)が悪化するので怖いのです。
インプラントの治療期間
虫歯や歯周病で歯が抜けてしまうと、普通はブリッジや入れ歯を入れます。インプラント治療では、抜けた部分の骨に金属を埋め込むという手術。その後、上部に補綴物を作るというプロセスがあります。
だから、インプラント治療では一般の治療とは違い、長い期間を要します。
まず、インプラント治療をする前には、精密検査と診断が必要です。その後にインプラントの埋没手術をします。
しかし、骨にインプラントを埋め込む手術をするにも、抜歯をしてから4~6か月経っていないとできないのです。(骨の回復を待つため。)
インプラントを骨に埋め込む手術の後、インプラントと骨が結合するまで6か月ほどおきます。
術後の状態が良いことが確認できると、インプラントの上部の補綴物(ブリッジ・義歯など)を製作をはじめます。型どり、補綴物の製作、噛み合わせなどの調整に2~4週間かかります。
ですから、早くても1年、普通はそれ以上の期間が必要になります。
でも、これだけでインプラント治療が終了したわけではありません。インプラント治療は、口の中に補綴物が入ってから後の定期的なメンテナンスが重要なのです。
先ほどもいったように、ていねいにケアをしないと、歯周病(インプラント周囲炎)になるリスクが高いからです。
インプラントの治療費
インプラント治療にかかる費用は、全額患者負担の自費診療ですので健康保険のようには安くできません。ただし、一部例外もあります。
最近外傷や腫瘍等の病気で顎骨を失った場合や、その部位に骨移植をおこなって再建した場合、先天的に歯や顎骨を欠損している場合に限って、インプラント治療に健康保険が適用されることになりました。
引用:日本口腔インプラント学会
このようなケースでは、健康保険が適用されるようなので歯科医院でご相談されることが大事です。
インプラント治療では、インプラントを埋め込む手術代がかかります。手術代は、10万円~38万円です。
インプラントの場合には、普通はポーセレンなどの保険外の人工歯を入れます。人工歯1本あたりの費用は10万円~15万円が相場。
でも、治療はこれだけではありません。治療前の精密検査と診断に1,5万円~5万円。治療後のメンテナンスに1回あたり5千円~1万円かかります。
ですので、インプラントを1本入れる場合の合計費用は、30万円~が相場。
この費用については、地域によっても違いますし、上部部分の人工歯をセラミック歯にするかどうかでも違ってきます。
インプラント治療費が極端に安いとか高い場合は、他と比較して検討する必要があります。
インプラントの失敗例と原因
インプラントにも失敗があります。失敗の原因は、治療する歯科医師にある場合もあれば、患者側にあることも。
インプラントで失敗しないように、失敗の原因を知っておくといいかもしれません。
インプラントが骨と結合しない
ドリルの熱により骨にダメージが多いと結合しない。
インプラントが適切に埋入されていない
手術の仕方に原因がある。インプラントが骨と結合しないので外れてしまう。
術後に痛み・しびれ・腫れが継続する
インプラントの埋入によって、神経を圧迫したり損傷していることがある。ほかに、インプラントが細菌に感染しインプラント周囲炎によって痛みを生じるケースがある。
人工歯が破損する
咬合調整が適正でないために嚙み合わせが悪く、セラミック歯が破損することがある。
人工歯が外れる
インプラントと人工歯の連結が緩んでいると脱落することがある。
インプラントの失敗を防ぐための歯科選び
インプラントの失敗を防ぐためには、安全で正確な治療を受けることが重要です。そのためには、歯医者選びを慎重に行うことが大切です。
最近では、どこの歯科でも「インプラント治療ができる」とうたっています。しかし、インプラント治療をするには、専門の設備や術者が必要です。
インプラント治療を安全に行うには、CTや手術室、滅菌器などの衛生管理機器、手術中の全身管理設備などの設備機器が必要です。これらは、すべての歯科医院で備えているわけではありません。
また、学会に所属し、インプラント治療の経験豊富な医師もいれば、インプラント治療の経験が浅い医師もいます。
それに、インプラントの手術の時には、麻酔医や看護師などのスタッフも必要。麻酔時のトラブルもあるので、麻酔医の技術や経験も大事です。
ですから、インプラント治療を受ける歯科医院は、慎重に選択しなければいけません。費用や距離も大切なことですが、失敗しては元も子もありません。
インプラントに不適なケース
インプラントは、抜歯した部分にでも植立でき、自分の歯のようになるので現在の歯科医療では最先端技術の一つです。
ところが、だれでもインプラントにできるというわけではありません。手術に耐えられないケースは、まず無理です。
手術できないケース
- 免疫不全
- 1型糖尿病
- 放射線治療を受けている
- 成長期の子ども
困難なケース
- 重度歯周病
- 歯周病で歯槽骨が減退している
- 骨粗しょう症
- 口腔内の清掃状態が悪い人
- 喫煙者
このような場合は、まず治療して改善してからの手術となります。
インプラント周囲炎を予防する方法
先ほどの話からもお分かりのように、たとえインプラントにしても、歯周病(周囲炎)になったり、口臭がでるかもしれません。
そうならないようにするためには予防が大切です。
そのためには、
- 短い期間に歯科検診(メンテナンス)を受ける。
- 定期的に歯石除去やクリーニングをしてもらう。
- 歯ブラシだけのブラッシング方法ではなく、ワンタフトブラシを使用して、狭い歯周ポケット部の清掃を行う。(ケースによっては、歯間ブラシやフロスも使用する。)
インプラント周囲炎にならないようにするには、今まで以上に口腔ケアを行うことが必要です。
インプラントの前歯は、ポーセレンで出来ているので汚れは着きにくい。しかし、たとえポーセレンといっても、人工の歯です。インプラントと人工歯との接合部分に段差ができることがあります。歯肉部分に隙間ができるかもしれません。その部分に汚れがたまり歯周病の感染がはじまります。
ブリッジの場合は、ダミーの底部分に汚れがたまります。ダミーの底は、歯ブラシでは清掃が困難です。歯間ブラシやワンタフトブラシを使用しないと、きれいに清掃することができません。そのために、歯肉炎になり口臭がすることがあります。
これらが、インプラントを入れてからも歯周病になる理由です。インプラントを入れたからといって安心してしまい、歯磨きをていねいにしないと、歯周病になり口臭が発生するのでご注意ください。
歯周病による口臭の対策については、こちらの記事『歯周病はうがいで治る!?アルカリイオン水うがいで進行が防げる』をご参考にしてください。